「心の途上国日本」

田中慎一

田中慎一

今から26年前の夕食時、、小学3年生だった私の目にテレビから飛び込んできたあの光景は、今でもしっかり脳裏に焼き付いています。アフリカで暮らす子どもたちが、地面に裸で横たわっています。骨が透けて見える程のやせ細った身体。異常に突き出たお腹。その身体に群がるハエ。それまで友達より小遣いが少ないなどと言って愚痴を溢していた私にとって、あまりにもショッキングな内容でした。

33歳になった私は今、アジア専門の留学案内をしています。この仕事をするきっかけになったのは、他でもないフィリピン留学の経験があったからです。幼い頃、あの光景を目の当たりにした自分は、「いつか彼らを助けたい」そう思うようになっていました。

フィリピン留学にもそんな想いがありました。それに今や世界経済はアジアが牽引。アジアの国に行けば目覚しい国の発展が目の当たりに出来ます。将来を見通す力だって付くでしょう。更に私の場合、先進国に行くよりもむしろ途上国に行く意義がありました。「貧困の現状」を知るためです。英語は勿論ですが、その先に見えるものにこそ意味がありました。大都会に隣接するスラム街。ゴミ山で暮らす少女。そうした国の事情をこの目でしっかり確かめ、それから自分の進むべき道を決めようとしていました。

去年の夏、いよいよフィリピン。治安や生活習慣の違いに不安はありました。でもいざ行ってみると、何故か昔の日本のようで不思議と帰りたくなくなるものです。ここへ来た人は皆口を揃えてそう言います。妙な懐かしさと同時に、フィリピン人の人懐っこさ、これがこの国のファンを多く生む理由でしょう。現に現地で会った日本人の8割は、2度、3度とフィリピンに足を運ぶようになっていました。

フィリピンでは英語漬けの毎日。長年英会話教室に通っても、殆ど上達を感じなかった自分でしたが、ここへ来てたったの4週間、思ったことがある程度話せるようになっていました。そしてなんと2か月目には、現地で留学案内業を始めてしまったのです。こんな話をすると嘘だと思うかもしれませんが、本当の話です。

せっかくフィリピンにいるのだから、ここでしかできないことを経験したい!こんな突飛な発想とたった4週間の英語力だけで、かつて経験したこともない案内業を一人で始めてしまいました。授業の後は他の学校に出向き、ビジネスマンとして韓国人マネージャーと英語で面会する日々。語学力ついただけではなく、何事にも物怖じしない性格へと変わった瞬間でした。

帰国から1年、フィリピンへ行く機会はすぐにやってきました。やっぱりフィリピンに戻ってきたのです。日本のような窮屈感はなく、皆クリスチャンだけあって敬虔な人が多い国。駅や車内でスマホをいじる人は殆どいません。それよりもリアルな人との交流、そして助け合いをとても大事にする彼らが大好きだったのです

それに今度は、この目でもっと世界を知りたいと思っていました。フィリピン全土を歩いて横断、同様にインドネシアからシンガポール、マレーシア、そしてクーデタまっただ中中のバンコク。それぞれの価値観、生活スタイルを学びました。

行く先々で出会いは必ず起こるもの。意気投合して何日も一緒に旅をしたオーストラリア人、家に泊めてくれたフィリピン人。一緒に朝まで飲み明かしたドイツ人。バスを乗り継いでまで道案内してくれたタイのお母さん。なんど涙を汗で隠したかわかりません。私にとってこれらの出会いは、単なる出会いではなく、自分の概念を破壊するブレークスルーとなったのです。

「世界の貧困をこの目で確かめる」そう思いながら旅を始めた私は、スラム街で家を建てながら、こう考えるようになっていました。「貧困の定義を見直さなければならない」。お金がないこと、それだけでは決して貧乏とは呼べません。1日1ドル以下で生活しているような家族でも、私たち日本人より心はずっと豊かです。

自然と共生し、テレビがなくても、電気がなくても子供たちは笑顔に満ち溢れています。毎朝「コケコッコー」の合唱がけたたましくそこら中から聞こえてくると、今日もいつも通りの朝が来たことを実感し感謝する。そんな毎日が嬉しくて仕方がないのです。そんな彼らに「助ける」という言葉は相応しくありません。それよりも、「一人でも多くの人にこのことを知ってもらいたい」そう考えるようになって今の仕事に就いたのです。

海外へ出るなんて一昔前は金銭的にハードルが高く、一般人には夢のような話でした。でも今は違います。一日たった数時間のバイトをすれば簡単に世界の切符が手に入ります。そして基本的な中学英語さえできれば、それだけで人生の可能性は無限大の広がりを見せ始めるのです。そんな私の使命は今、一人でも多くの日本人に、「英語の先にあるもの」を見つけてもらう事です。その一歩、たった一歩が人生の大きな転機になることが間違いないからです。

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