「アートセラピーとこどもたち」

本吉亜衣(学生)

本吉亜衣

あなたは、「アートセラピー」を知っていますか?
「アートセラピー」とは、主に描画を用いてカウンセリングを行ったり、感情の発散や解放を行ったりすることができるものです。私は、日本でアートセラピストの資格を取るために勉強をしています。そしていずれ海外でもそれを深く学び、日本にアートセラピーを広げていきたいのです。
 わたしとアートセラピーとの出会いは、3年ほど前でした。大学受験の勉強のために図書館に行ったときのことです。そこで、ある一冊の本と出合います。園田正治さんという方の、「子供の絵と大脳のはたらき」という本です。そのなかには「アートセラピー」という言葉は出てきませんでしたが、今学んでいるアートセラピー的な姿勢がそこにはありました。子どもたちの創造力を伸ばして広げて受け止める、そんな園田さんの謙虚な声かけに私は感動しました。それまでも、ボランティア活動などで年下の子供たちの面倒を見るのが大好きでしたが、それを読んでから、子供たちの絵とかかわる職業につけたらどんなに素敵だろう、と思うようになり、子供たちのことをもっと知りたいと思いました。アートセラピーを学んでカウンセラーになるために、大学では心理学を学ぼう、とそのとき決めたのです。
 無事に大学に入ることができました。しかし、心理学は思っていたような勉強ではありませんでした。とにかくデータを取り、統計をし、分類をしているだけのように見えました。私がしたいこととは真逆のことです。つまりわたしは、過程を見守り、寄り添い、そのひとの世界を広げる手伝いがしたかったのです。残念ですが心理学はやめることにしました。そして、多くの人のことを理解するために文化人類学を専攻することにしました。
ですがアートセラピーを忘れたわけではなく、学校の勉強とは別に、学外の講座に通うことで学びを続けています。大学でアートセラピーを学んだ教授がたまたまいたので、その講座を勧められたことがきっかけでした。いまではその教授のゼミに所属し、アートセラピーを学内に広げるためのワークショップを計画するなどの活動をしています。そのほかには講座を受けるなかで出会った先輩が開いている、幼児向けのアートセラピー教室にもサポートとして参加させていただいたり、そのほかにも様々な催しものに参加したりしています。
いまは、自分自身でも子どもたちのためのアートセラピー教室を開きたいという夢も新たにできました。そこは単にアートセラピーを提供するだけではなく、アートが大好きになり、一生こころ豊かに過ごせるような経験をたくさんできる場所にしたいと思っています。お金や物はいつか壊れて価値が変わるけれど、こころはずっと豊かでいることができるからです。そのことを強く思うようになったのは、今年の夏の、ある出来事がきっかけです。夏の終わりごろ、自分自身が書き溜めた絵を展示させていただく機会がありました。グループ展で、主催の方のアトリエを開放するものでした。主催の方に、「アトリエの壁とか床にも書いていいよ」といわれ、チョークを使ってもくもくと描いていました。ほかの参加者の方がどんどん参加してくれ、アトリエの中に大きな川ができ感動したことを覚えています。そのとき、アトリエの前をたまたま通りかかった男の子がいたので、「一緒に書こうよ」と声をかけました。彼は恥ずかしそうにして、「絵なんかかくのきらいだから、苦手だし」といっていました。けれどきれいな色のチョークを見つけ、妖怪ウォッチのキャラクターをかいてあげたりなどしているうちに、なんだか楽しい気持ちになってくれたようでした。帰りは、チョークだらけの手で元気に手を振ってくれました。そしてその二日後、その展示の最終日です。また彼が来てくれました。今度は、私の手をひっぱり、「先生、描こうよ!!!」と言ってくれたのです。私は驚きました。お母さんに聞くと、あれから家に帰った後も、自分で絵を描きつづけていたようでした。わたしはまた、彼と絵をかきました。チョークはとても小さくなっていました。「道路にもかいちゃお」と、いたずらっぽく笑いながら、かれはアトリエを飛び出していきました。というより、道路をアトリエにしてしまいました。一生懸命にコンクリートをキャンバスにして、にこにこ笑いながら色をつけ続けていました。きっと、絵を描くことが楽しくなってしまったんだ、そう思ってとてもうれしい気持ちになりました。絵を描くことが好きだったら誰でもアートができることを実感したのです。この体験をもっともっと広げていきたい、そのためにもっともっと学びたい、そう思いました。アメリカやイギリス、カナダでは、日本よりもアートセラピーについて学ぶ機関がたくさんあります。私は、そういうところにいってまなび、日本のこどもたちと未来を創っていきたいのです。

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