「世界に日本の鍼灸治療を伝えたい」

比良田 めゆみ(鍼灸院経営)

比良田 めゆみ

私は都内で鍼灸院を経営している鍼灸師です。プライベートでも親しくさせて頂いている女性のクライアントさんがフランス人男性とご結婚され、昨年末、パリのご自宅に遊びに行くことになりました。ご主人はアメリカの大学を卒業されているので、英語も堪能とのこと。少しでも、ご主人にご挨拶ができたらいいなぁと思い、約20年ぶりに英語の勉強を再開することにしました。中学、高校時代は英語は得意科目だったので、少し勉強し直せば、すぐに話せるようになると高を括っていました。さっそく近所の英会話教室のグループレッスン回数券5回分を購入しました。これだけで挨拶くらいは出来るようになるだろうと思い込んでいたのです。なんせ中、高あわせて6年も英語を勉強していましたし。
しかし、いざ英会話教室に行ってみると、言いたい言葉が全く口から出てきません。見慣れない容姿の外国人の先生を見ては緊張し、他の日本人生徒さん達の前で、下手な英語を発することもも恥ずかしい。頭の中は真っ白…。結局、5回のレッスンで話せるようになんてなりませんでした。当たり前ですが…。その後、フランスへの旅行。クライアントさんのご主人と話せるようになるわけもなく…ただ悔しい気持ちだけが心に刻まれました。当初、旅行が終わってからも英語の勉強を続けるつもり全くなかったのですが、ただただ悔しいのと、なぜこんなに口から英語が出ないのだろうという不思議な気持ち、英語が自然と口から出てくる人の気持ちってどうな風なんだろうという探究心から、結局、1年以上、毎朝50分のオンライン英会話と独学の英語学習を続けています。
もともとの性格から考えると、何かを続けることは苦手だと思っていたのに、英語学習に関しては持続できていることに自分でも驚いています。英語学習を続けているうちに、せっかく英語を勉強しているのだから、これを仕事に活かしたいと思うようになってきました。最初は自分の治療院に外国人のクライアントさんが来てくれたらいいなぁくらいに考えていたのですが、日々、語学学習を続けていくうちに、他の国の文化や人々の暮らしにも興味が湧いてきました。それを特に感じたのは、オンラインレッスンで出会ったフィリピン人の先生たちからです。
オンラインレッスンを始めるまで、実は他の国の方と長く話す機会はなかったのです。日本という国はそれだけ孤立しているということでもあると思います。40年も生きていてほとんど外国の方と関わらなくても生きていける国なのです。またフィリピンは日本と同じようなアジアの島国なのに、なぜフィリピン人の先生たちはこんなに母国語ではない英語を上手に使いこなせるのかというのも興味深く感じました。その後、フィリピンの歴史について書いてある本を読んだり、インターネットで国の状況を知り、考えさせられもしました。また英語のニュース記事を読む学習などをしていくうちに世界から見た日本ってどういう感じなんだろうと思うようにもなりました。若い時分は海外志向など全くなく、ワーキングホリデーや語学留学に行く友人たちの気持ちが全く理解できませんでした。母国語だけで暮らせる日本の平和な暮らしで十分なのに、なぜわざわざ他の国に行かなければならないのだろうと常々思っていたのです。
しかし、40歳を過ぎた今、思うことは人生80年、私の家系の身体の丈夫さから考えたらそれ以上。せっかく親から貰ったこの人生、狭いこの日本の中だけで終わらせるのは勿体無いような気がしてきたのです。そして私は鍼灸という技術を持っています。鍼灸の起源は中国にあり、一番、鍼灸治療が盛んな国は中国です。しかし今では世界中の健康志向、薬を極力使わない自然に近い治療法としてアメリカ、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパ諸国など、各国で注目されつつあります。そして、一番多く活躍しているのはやはり中国出身の鍼灸師たちです。彼らの治療は素晴らしいものだということは知っています。しかし、起源は同じでも江戸時代から独自の進化を遂げた日本式の鍼灸もまた繊細で素晴らしい技術なのです。それに日本の美容師、理容師の需要が海外で高まっている理由と同様、我々日本人にはおもてなしの心、サービス精神があります。治療技術だけでなく、日本人のホスピタリティーも世界に知らせたい。

そう思い、私は来年、語学学習と他国での鍼灸治療の可能性模索のために留学を決意しました。来年は42歳になる年。身辺整理も10代、20代の頃より多く、煩雑です。それでもやはり、行って、見て、体験して、自分の頭で考えて、まだ会っていない誰かに、私の技術や気持ちを伝えたい、そう思っているのです。

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