「戦うネイリストとともに~次の扉のその先に~」

かとうひかる(会社員)

かとうひかる

はじまりは南の島だった。10歳の頃、はじめての海外旅行でサイパンへ行った。少しだけ英会話を習っていた私は、イミグレーションでの質問に、観光、サイトシーイングと答えると覚えていた。パスポートを手渡すと、制服姿のおじさんはペラペラとパスポートをめくり私の顔を見て何か言った。私は「サ…サイトシーイング」と緊張しながら答えた。おじさんはパスポートにポンとハンコを押し、「ハバナイストリップ」と言って笑顔でパスポートを返してくれた。私は「サンキュー」と答えて微笑んだ。これが、私の記念すべきはじめての外国人との英会話だ。これで調子づいた私は「ハロー、ナイストゥーミーチュー」と旅で出会う褐色のサイパンの人々に挨拶した。「ハロー」効果か、この旅で私は片言の英語と身振り手振りでサイパンの人々と交流が持てた。自分の知っている世界が倍に広がった気がした。世界には沢山の国がある、この隣にも更に隣にも違う国がある。どんな人が住んでいるのか知りたい、言って話してみたい。私は、地球儀をくるくる回しながら、漠然と世界に思いを馳せる子供になった。

大人になり、私は海外旅行が趣味になった。休みの度に色々な国へ出かけた。飛行機から降りて感じる異国の空気が私を高揚させる。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランス、ギリシャ、トルコ、エジプト、アジア諸国など沢山の国に出かけた。旅行の回数が増えるにつれて、もっとその国の文化やそこに住む人について知りたいという思いが募った。旅行に行かない時は、毎月仲間と東京にある外国の料理が食べられるレストランを訪れた。食べるだけではもの足りず、日本に住む外国人の家に伺って、その国の料理を習うようになった。10カ国以上の料理を習い食べ、その国と日本との違いをディスカッションした。台湾人の料理の先生とは、一緒に台湾旅行もした。

そんなある日、その料理教室で、都内にミャンマー人ネイリストが施術するサロンがあることを聞いた。面白そうなのですぐに予約をした。そこで 一人のミャンマー人女性と出会った。毎月爪のお手入れしながら、日本語と英語を混じえて色々な話をした。彼女の話はとても興味深いものだった。ミャンマーは複数の少数民族の集まった国、ユニオン。彼女はそのひとつ、カチン族の出身。彼女のおじいさんは、民族を代表してミャンマー統一の際にサインをした。彼女の故郷は、翡翠やルビーなどの宝石や金など多くの鉱物が取れる。地下資源を巡って何年も内戦が続いている。アウンサンスーチーではないが、彼女は平和を祈る活動家。20代のとき、デモに参加したことをきっかけに身の危険を感じ国を離れ、その後も国の不安定な状況から故郷に戻れず日本で20年暮らしている。今は遠く日本から故郷の平和を求め様々な活動をしている。目の前で爪の中に小さな花を描きながら鼻歌を歌っている彼女は、「戦うネイリスト」だった。ユニクロのセーターの上には、故郷で採掘された本物の大粒のダイヤモンドのペンダントがキラキラと輝いている。平和になったら、故郷でネイルや美容関係のサロンを開きたい。女性が美しさを求めて自分磨きをできるのは平和の象徴だから、と彼女は言った。

出会いから4年が経ち、私達は友達になった。彼女の故郷は相変わらず戦争が続いているが、ミャンマーは民主化に向かい一歩ずつ前に進んでいる。彼女が故郷に戻れる日も近づいている。1年前から私達は、一緒に何かをしたいという思いを抱くようになった。ミャンマーと日本、両国に関わる何かを。2人でこれから両国に利益をもたらすビジネスをしようと決めた。日本の諭吉をミャンマーにバラ撒くのではなく、日本の技術を伝えミャンマーに雇用を生み出し、ミャンマーでの経済活動により日本にも利益をもたらす。互いにWIN-WINになるような関係を構築する。私達のアイデアの1つは「ミャンマーでの建設業」だ。ミャンマーではこれから沢山の人が家を建てる。下水道工事も必要となる。幸いなことに、私の実家は土建屋。彼女の親戚にも若き建築家がいる。海外ビジネスは難しいが、彼女と沢山の仲間と皆でスクラムを組んで一緒に戦うのだ。ネバーギブアップ。私は、彼女の生まれ育った故郷で、国が、街が、文化がかたち作られていく瞬間に立ち会ってみたい。そして、私達が建てた建物に暮らす女性達が、自分磨きにネイルサロンに通う、そんな未来が訪れることを信じている。

私が世界を目指す理由、それは面白いから。「ハロー、ナイストゥーミーチュー」勇気を出して挨拶をした10歳の私が開いた世界への扉。その先にはワクワクドキドキ、今まで見たことのない世界が広がっていた。そして、素敵な友達がいた。目の前にある扉を開くと、必ずその先にはもう少し大きな扉がある。次の扉は友とともに開く。この先にあるもっともっと大きな扉を目指して。

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