「英語力」

松本拓也(YELLA J.)

松本拓也(YELLA J.)

「広い世界を見るのだ。」これは『GO』という映画の中で主演の窪塚洋介が父親に言ったセリフです。私が世界は本当に広いと知り、その広い世界を自分の目で確かめたいと思うようになったのは20代になってからでした。私は10代の頃からアイデンティティーについて深く考える人間でした。自分は何の為に生まれてきたのか、そもそも自分は一体何者なのか。表面上では協調性のある人間を演じながらも実は他人の評価や批判を素直に受け入れることができませんでした。そして「それに耐えなければ人間関係がうまくいかない」と人に合わせる自分の行動と考え方の矛盾に自己嫌悪に陥った時期もありました。

高校3年生の時私は進路に迷っていました。大半の友達は大学進学を決めている中、私は目的のないまま大学に進むべきなのか。私は進路指導部の先生に思い切って相談し、自分の抱えている悩みや将来に対する不安を打ち明けました。すると先生は「大学には行け、長いものに巻かれた方がいい時もある。」という回答でした。
結局信頼していた担任の先生の勧めもあって大学を受験することに決めました。

無事に大学に入れたものの、今ここにいる意味を感じない日々を過ごしていました。ある晩、友達の誘いで初めてヒップホップのイベントに行きました。ナイトクラブは初めてで、年齢や性別、人種に関係なく多くの人達がお酒を飲みながら楽しく過ごしていました。その光景は私にとって衝撃的で最高のエンターテイメントの世界でした。

もう一つ衝撃的だったことはそのイベントのメインゲストのラッパーの歌詞が、私が長年考え続けてきた生き方や考え方、言葉にできなかった感覚を歌で完璧に表現していたことです。社会を風刺したり、批判する人を批判したり、これが俺の人生なんだと、自己主張そのものに音をのせた、そんな歌でした。そしてその音楽性や歌詞に共鳴したファンが大勢いたのです。「今まで否定してきた自分の思いを言葉で表現したい。私があの時衝撃を受けたように、自分の歌詞で多くの人の人生にインパクトを与えたい。」私はラッパーになろうと決意し、それは自分の進みたい道を自分で見つけた瞬間でした。

あれから8年、自分自身と徹底的に向き合い、視点を変えて物事を考え、言葉や表現についても研究を重ねました。その中で多くの出会いや機会に恵まれ、ライブ活動を行う中で多くの作品を残すことができました。そして私はその作品に共感してくれる多くの人に支えられてきました。

あるライブの後、ジェーダンと名乗るアメリカ人のラッパーに突然話しかけられました。「悪いがお前のラップは日本語だから意味はさっぱり分からない。それでも感動するものがあった。お前の歌詞を英語に訳して見せてくれないか。」友人にお願いして私の英訳した歌詞をジェーダンに見せたところ、「お前の作品にはアメリカ人のラッパーにはない日本人独特の発想や日本語独特の表現がある。これは音楽を載せなくても詩として成り立つ程の作品だ。英語でこれを伝えられないのは非常にもったいない。アメリカはアマチュアでも上を目指す才能のあるラッパーで溢れている。ラップで一流を目指すならニューヨークへ行け。」彼の言葉は自分の音楽が一部の人でも世界で認められる可能性があることを教えてくれたのです。それと同時に私は自分の音楽を世界に伝えたいと思うようになりました。

それ以来私はアメリカのヒップホップの曲を中心に聴き始めました。英語の歌詞には日本の歌詞にはない表現や歌詞に込めた気持ちの奥深さがありました。アメリカのラップに感化された私は英語のラップを独学で練習し試作品も何曲か作ることができ、縁あってオーストラリアでプロモーションビデオを作ることができました。作品の制作過程で外国人と英語でコミュニケーションをとらなければいけない機会も沢山ありました。ほとんど英語が聞き取れない、話せない状態で、身振り手振り、紙に書いたりして自分のイメージを必死に伝えたのです。あの時は本当に苦労したのを覚えています。

"言葉や表現はその国の文化や歴史を大きく反映させています。これは日本語と英語ラップの歌詞を比較して気づいた大きなことの一つです。今までの私のバックグラウンドや思想やビジョンを、日本独特の発想と表現を通して、「日本人として」世界に発信していく。それを可能にさせるのは英語だと私は確信しています。

音楽に携わる人はミュージシャンまたはアーティストとも呼ばれます。音楽はアート、つまり芸術です。芸術家は自分の内なるものを絵画、陶芸、写真など様々な形で表現します。私は自分をいちアーティストであり、いち表現者であると考えています。「私が世界を目指すわけ」それは才能溢れる世界中の多くのアーティストと関わり、世界は広いと知り、命ある限りその広い世界を見ることで私は新たなアイデンティティーを再発見できるからです。

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